Man and Woman

Heaven's Door

「髪、少し濡れたな」
「あ、うん、でも大丈夫」
 首を横に振ると、肩先でゆるく巻いた毛先が揺れた。
 その毛先を、彼が指に絡ませる。
「じゃあ、続きをしても?」
「ん……」
 返事が言葉にならなかったのは、返事をするより先に唇が重なってきたから。
 長い長い、とろけるようなキスってこういうのを言うんだ。
 この前逢った時もその前にもキスはしたのに、こんなキスは初めてだった。
 身体の奥がきゅんと疼いて、もっと彼を欲しがってる。
 キスをしながらベッドに腰を下ろして、彼の手が肩から背中、そして胸へと動く。
「あ……!」
 膨らみをぎゅっと手のひらで包まれると、思わず声をあげてしまう。
 ニットの裾から彼の手が中に入りかけたけど、
「あっ……自分で、脱ぐ」
 と、立ち上がる。
 ベッドに座った彼に背を向けて、ニットとスカートを脱いでソファの背に掛けた。
 ハイソックスも脱いで、ブラとショーツだけになって、彼に向き直る。
 彼は、
「きれいだ」
 と言って目を細めるから、少し照れくさい気持ちで彼のそばに腰を下ろした。
 彼はすぐに、私の腰に手を回して抱き寄せる。
「この前と、違いすぎない?」
 さっきみたいなキスは初めてだったし、こんなに私を求めるようなそぶりもなかった。
 今だって頬やまぶたに何度も軽いキスを落とす。
「だって、この前は君とは初めてだったし。……でも」
 首筋から鎖骨を撫でて、胸の谷間を指先が滑っていく。
「あ……」
「こんなくらいでそんな声を出してくれるって、わかったから」
「や、やだ……あ……」
 ブラの上から先端を摘まんで、指先で捏ねる。
「けっこう、好きなのかなって」
「ん……だって、誠さんが好き、だからぁ……」
「じゃあ、もっと気持ち良くなろう」
 と、背中に手を回してブラのホックを外した。
 彼は、胸の弾力に押し上げられてふわりと浮いたブラを剥ぎ取り、自分が羽織っていたシャツと一緒に隣のベッドに投げてしまう。
 私の裸の胸を弄りながら、耳元に唇を這わせる。
「セックスは、好き?」
 耳の中に吹き込むように、掠れた声で囁く。
「ん……いやじゃない」
「どんなふうにして欲しい?」
 その言葉にどきりと心臓が高鳴る。
「この前は物足りなかったんだろ? 俺もそうだった」
 耳たぶを軽く食んで、濡れた舌がゆっくりと耳元をなぞってから、首筋を滑りおりた。
「あ……ほんと、に?」
 もっと、壊れてしまいそうなくらいに愛されてみたい。
 経験したことのないような快楽が欲しい。
 そんなことを思ったけど、それは言葉にしてしまっていいものかどうか迷う。
「君を、めちゃくちゃにしてみたいよ」
 私の胸元に顔を埋めて、くすくすと笑った。
 その吐息まで、私を快楽に惹きこむ。
「……めちゃくちゃに、して?」
 ふと彼が顔を上げた。
 お互いの視線が絡まり合う。
 仕事をしている時には見たことのない瞳に、もう離れられない、と思った。
「その言葉、後悔するなよ?」
 自信過剰じゃない? と一瞬思ったものの、胸の頂きをやさしく歯で咬まれて吸いたてられると、言葉にならない。
「あ……ああっ……!」
 舌先で転がしたかと思うと、口に含んで吸いたてる。
 両手で包み込んで強く揉んだり、つんと硬くなった先端を爪の先で軽く引っかいたりしながら、私の反応を見ている。
「こういうの、好き?」
「んっ……すき……」
 でももっと、彼を求めている場所がある。
 身体の奥底から彼のために溢れ出る蜜がもうすでに下着を濡らしているのを、彼は気づいているのかもしれない。
 するすると彼の指先がお腹を通って、ショーツの上をそっと触れた。
「ずいぶん小さいショーツだな。いつもこんななの?」
 布部分は彼が言うようにやや小さめで、脇がリボンで結ばれている。
 ブラとお揃いのベビーブルー色のサテン素材に繊細なレースが施されていて、セクシーだけどかわいらしい、ひと目で気に入ったものだった。
「今日は、特別……誠さんに見せたかったの」
「意外に普段からセクシーなのをつけてるってのも、いいかもな。俺だけが知ってる、みたいな」
 するすると指先でショーツを撫でながら、笑う。
「Tバックとか?」
「うん、けっこう好きだな、そういうの」
 なんて言うから、少し笑ってしまうけど。
「ね……もっと、奥…っ……」
 前の方やお尻だけをゆっくりと撫でる手がもどかしくなって、少し脚を開いて腰をくねらせる。
「もう少し、焦らそうかと思ったけど……」
 と、彼は私の脚の間に指を伸ばす。
「もうぐっしょり、溢れてるみたいだ」
「ふ、ああっ……」
 ショーツの上から割れ目に沿ってゆっくりと指を滑らせた。
 思わず腰が浮く。
「もう腰動いちゃうんだ? けっこう淫乱だったり?」
「んん……ダメ……? だって、気持ちいい…っ……」
「もちろん、いいよ。君の、他の誰も知らないところ、もっと見せて」
 そう言って、脇のリボンをほどいた。
 ショーツはただの小さな濡れた布切れとなって、身体にまとわりつくだけ。
 指をかけて脚から引き抜いて、彼のために脚を開く。
 彼の指は割れ目の中を探る。
「あっあっ、そこ……もっと、中ぁ……」
 彼の指を迎え入れるように腰を揺らすけれど、するりと逃げてその前の小さな突起を撫で始める。
「あ、そこは……っ……あ……」
「ここは、どう?」
「すご…い……っ……いい…っ……!」
 指の腹でそっと撫でたかと思うと、そこを押しつぶすかのように強く擦る。
 割れ目から溢れる蜜を掬ってそこに撫で付けると、彼の指の感触が今までと違うぬるぬるとしたものに変わった。
「ぷっくり膨らんで……きれいなピンク色してる」
「やだ……言わないで」
 そう言いつつも、自分では見えない部分の様子を口にされると、すごく興奮してしまう。
「ここももうひくひくして、俺を誘ってるみたいだ」
 つるんと指先で割れ目の上をなぞられると、思わず背中がのけぞる。
「うん……お願い……そこも、触って……?」
「触るだけ?」
「……触って、中まで……かき回して」
 我慢なんてできない。
 こうやって抱き合いはじめた時から、恥ずかしさなんてすっかりどこかに行ってしまって、彼を求めることだけが頭の中を支配している。
「あっ…あっ……」
 彼の長い指が出し入れされる指の動きに合わせて、声が漏れる。
 彼は私ののけ反った喉元に唇を這わせて、舌先であごのラインをなぞり、唇を重ねる。
「んっ…う……」
「やばいな」
「え……?」
「君がこんなに、かわいいなんて」
 と、笑う。
「あ、やだ……」
「さみしがりやで、素直で、淫乱で。すごくいい」
「淫乱は、よけい……」
 言葉の途中で唇が重なって、続けられない。
「淫乱だろ? ほら、指二本も咥えこんで、自分で腰揺らしてるなんて」
「あん、だって……」
 ほとんど無意識に腰をゆらゆらと動かして、彼の指が胎内の気持ちいいところに当たるようにしてしまっている。
「そういうとこ、すごくかわいい」
 誉められてるのかどうなのか、よくわからないところだけど。
「あっあっ、あ…だめ、そこっ……だめぇっ」
 ふいに彼の動きが強くなると、私の声は叫びに近い声になってしまう。
「どうしてだめ? いきそうだから?」
「んっ…や……いっちゃうよ…っ……」
「どうする? いきたくないの?」
 なんて言って動くのを止めるから、私は彼の手首が離れなようにぎゅっと掴んだ。
「ちが……いきたい……だめ…やめないで…っ……」
 もう動かなくたって達するのは時間の問題だ。
 じわじわと何かに侵食されるような、攫われてしまうような。
 彼がぐっと指に力を込めると、何かが弾けたような気がした。
「もう、いく…っ……いっちゃうっ……!」
 びくんと強く身体が跳ねる。
 彼の指を何度も締め付けてるのが自分でもわかる。
「は……あ……」
 彼を見上げたら、私を見つめて目を細めて、私から引き抜いた指先を舌で舐めた。
 その舌に、瞳に、目が奪われる。
 オフィスでは絶対に見ることのできない表情。
 他の人は知らない、彼の『男』の顔だ。
「真琴」
 彼の声が耳の中でやさしく転がる。
「まだだよ」
「え?」
「まだまだ、君を味わいたい」
 彼は私の両脚を大きく開いて、その間に顔を埋めた。
「あっ! あ、ああ…っ……!」
 思わず鋭い叫び声を上げる。
 先程までの愛撫のせいでより一層敏感になった小さな突起を、彼は舌先でつつき、転がして、口に含んで吸い上げる。
 怖くなるくらいの気持ちよさに身体を捩っても、しっかりと脚を抱きかかえられていて、動くことができない。
 割れ目に舌を挿し入れて蜜を啜る、その音と感触に、私はもう失神してしまいそう。
 そう思った時、
「そろそろ、いい?」
 と、彼が顔をあげた。
「ん……おねがい……も…こわれちゃう……」
「めちゃくちゃにしてって言ったのは、君だよ?」
 そう言って笑いながら、ジーンズのポケットの財布から、小さな袋を取り出した。
「あ……ちゃんと、持ってたんだ」
 寝坊したくせに、意外。
 なんて、ちょっと意地悪なことを思った。
「そりゃあ、その気でしたから?」
 Tシャツもジーンズも脱いでしまって、小袋から出した薄い膜を自らに装着する。
 彼はベッドに仰向けになったままの私に覆いかぶさるようにして、私を抱きしめた。
 温かい肌に包まれて、私はうっとりと眼を閉じる。
「すっごく、しあわせ」
「俺もだよ。もっと、ひとつになろう」
「うん」
 私の返事を聞いてから、彼は彼自身の熱い部分を私にあてがう。
「あ……あ……!」
 ゆっくりと、でも確実に奥まで挿入されて、圧迫感に苦しくなる。
「ちょっときつい? 痛くないか?」
「ん、大丈夫……すごく、気持ちいい…っ……」
 唇も重ねて、舌を絡めあいながら、はじめはゆっくりと動き出す。
 彼が押し込まれるたびに溢れる蜜が卑猥な水音を立て、それがより一層私たちを扇情していく。
 ぎりぎりまで引き抜かれると、さみしくてせつなくなる。
 深く押し込まれると、満ち足りた気持ちになる。
 何度もその繰り返しで、頭の中がおかしくなりそう。
 彼は私の腰をぎゅっと抱きしめて、そのままくるりとふたりの身体を入れ換えた。
 私が彼の上に跨るような格好になる。
「君が動いてみて。好きなようにしてごらん」
「え……あ、あん……」
 この体勢はかなり奥まで彼が入ってくるし、少しだけでも腰を揺すると中で蠢かれるような感覚に一瞬で溺れる。
「あ、はぁ…っ……あ……」
 自分に跨って腰を揺する私を見つめながら、彼はやさしく目を細める。
「気持ちいい?」
「ん…っ……中で、動いてる…っ……」
「うん、真琴のなか、擦ってるよ」
 下から手を伸ばして胸を揉む彼の、手首につかまって身体を揺する。
 自分で自分を追い詰めていくけど、止まることができない。
 一気に頂点まで上りつめていく。
「も……だめ……また、いっちゃう…っ……!」
 身体が跳ねるようにのけ反って、後ろに倒れそうになるのを、彼が私の腕を引いて止める。
「あ……あ……!」
 意識が遠のきながらも、彼と繋がっている部分が何度も収縮して、彼を締め付けるのがわかる。
「真琴」
 気が遠くなりそうだったけど、名前を呼ばれて意識が戻った。
「あ……はぁ…ん……」
「後ろからでもいい?」
「ん、いい……」
 彼に言われるがまま、うつ伏せになって枕を抱きかかえて、膝を立ててお尻をつき出すような姿勢になる。
 彼は手で私の髪をかき上げて項にキスをして、そこから背中へと唇を滑らせた。
 それも気持ちがいいけど、
「ね……はやく、入れて……」
「そうだね、そろそろ最後までしたい」
「ん、……あっ……」
 腰を抱きかかえられて、一気に貫かれる。
 顎に指を添えて後ろを向かされて、半ば強引に口づけられる。
 その間も抽送は止まることなく、背中やお尻に彼の汗がぽたぽたと落ちるのを感じた。
「うん…っ……ふ……はあぁ……」
「真琴……いくよ…っ……」
 荒っぽく私を仰向けにして、深く口づけた。
 上も下も全部、彼でいっぱいになる。
「あ、ああっ……!」
 ひとしきり強く身体を打ちつけて、強く抱きしめられると同時に、薄い膜越しに熱い精が放たれるのを感じながら目を閉じた。


「真琴」
「ん……」
「よかった、気絶したのかと思った」
 と、彼がくすくすと笑った。
「気絶するかと、思った……この前と全然、違うんだもん……」
 口を開くのも億劫に感じるほどの倦怠感。
 後始末を終えた彼が私の隣に寝転んで、うつ伏せで枕を抱えたままの私の背中を指先で撫でる。
「だからこの前は様子見もあったからさ。だって君、ずっと彼氏いなかっただろ?」
「……そうだけど」
 大学生の頃につきあってた人は、就職してすぐに生活リズムが合わなくなって、別れてしまった。
 その後はずっと彼に恋をしていたから、その間は全然恋人はいなかった。
「初めてだったら、こんなふうにできないだろ」
「ん……そう、だよね。この前はすごく久しぶりにしたから、あれでよかったのかも」
「俺も久しぶりでさ。女の子とつきあうって」
「あ……そう、なの?」
 彼は飲み会の時とかもあまり自分のプライベートなことは話さないタイプで、彼女がいるのかどうかもわからなかった。
「うん。でもそのせいで不安になってたなら、悪かったなって」
「もう、大丈夫」
 こんなに愛されて、信じられないわけがない。
「そう?」
「うん。……誠さんは?」
「俺?」
「うん、……職場、離れちゃったけど」
 信じてるけどやっぱり少しさみしいのと、……他の人に目が行っちゃわないかなとか、そういう心配は少し。
 全然ないって言えるほど、私は強くない。
 こんなふうに抱き合ったばかりなのに、ふと、そんな現実を思い出すけど。
「ああ、でも、君が」
「真琴」
 と、私が目配せをすると、彼は苦笑する。
「……真琴が、きっとずっと好きでいてくれてるって思えるから」
「うん。……ずっと、好き」
 手を伸ばしたら指を絡めて握って、指先にキスをする。
「俺も、ずっと好きでいるから」
 背中に手を回して、抱き寄せられる。
 腕の中にすっぽりと包まれて、あたたかくてしあわせ。
「うん」
「それに、こんなセックスできる女は手放せないよ」
 と、私の髪を撫でた。
「それ、身体目当てっぽいっ」
 頬を膨らませて顔をあげたら、彼の唇が重なって、私はそのまま目を閉じた。




END


あとがき