Man and Woman

snow mail

 彼にはじめて会ったのは、入社式。
 でもホントは入社試験のときに一回話をしたらしいんだけど、私は全然覚えてなかった。
 だけど、新入社員みんなでの飲み会で隣同士になって、話をしてて楽しくて。
 それから何度かふたりで会うようになって、いつの間にか恋人同士になっていた。

 ラブラブに過ごした3ヶ月の研修期間のあと、配属先が決まった。
 私はそのまま東京。
 彼は、札幌に行ってしまった。



「札幌、初雪降ったんだってね! 見れた?」
 ほとんど毎晩、彼と電話で話をする。
 昼間は昼間でしょっちゅうメールをするから、携帯の請求書を開くのは毎月ビクビクしているけど、こればっかりはしかたがないの。
 最初は別々の会社のものを使ってたんだけど、通話料の節約のために同じ携帯会社にしたりしてる。
『真夜中だもん。見れねえよ。』
「えー、その年初めての雪を受け止めるとね、願い事がかなうんだって。」
『お前、そんな子どもみたいなコト言って……。いくつだよ?』
「21だよー。いいじゃん、なんかロマンチックでしょ。」
 最近彼は仕事が忙しいみたいで、話しててもなんだかそっけない。つまんないの。
「……クリスマスは、どうするの?」
『どうするもなにも、仕事だっちゅーの。平日じゃんか。』
「……そうだよねえ……」
 思いっきりタメイキをつく。
『お前だって社会人なんだし、わかるだろー?』
「うん、まあ、ね。」
 わかるんだけどさ。
 私だって仕事だけどさ。
 クリスマスが祝日になればいいのに。
 今はこんなに国民的行事になってて、11月になればもう街中がクリスマスなんだから、祝日にしちゃってもいいんじゃないの? って思う。
「……プレゼント、送るね。」
『うん、オレも、なんか送るから。正月にはそっちに帰れるからさ。』
「うん。」
 でもね、お正月とクリスマスって違うじゃない。
 女の子にはやっぱりクリスマスって大事な行事なのに。
 彼は全然わかってないみたい。
『じゃあ、また明日な。』
「……うん、おやすみなさい。」
『おやすみー。』
 電話を切って、またタメイキをつく。
 遠距離恋愛ってホント、「盆と正月」って感じだ。
 実際、この前東京に帰ってきたのはお盆だったし。
「こんなんで私、よくやってるよねえ……」
 ホント、心からそう思うわ。


 クリスマス直前の週末、私はひとりで買い物に出かけた。
 もちろん、彼へのプレゼントをさがすのが目的だったんだけど、やっぱりって感じでカップルだらけで。
 普段ならひとりでランチに行くのも平気なんだけど、今日ばっかりは気が引ける。
 私だって彼氏いるのになあ。
 なんでこんなつまんない気分になっちゃうんだろう。
 贅沢言ってるのかもしれないけど、つまんないし、ちょっとさみしい。
 ちょっとどころじゃないわ。
 すごく、さみしい。
 そんな気持ちをぐっと抑えて、彼に似合いそうなマフラーを買った。
 札幌は寒いからね。
 ラッピングは自分でするつもりで、包装紙やカードも買って。
 クリスマス当日に届くように準備をした。


『明日、電話できないかもしれないわ。飲み会入っちゃってさ。』
「ええー。明日ってイブじゃん! 電話くらいしようよ。」
 なんで、イブに飲み会なんてするのよ!
『でもさー……。ちょっと抜けることができれば電話するけど。無理だったら無理。』
 どうして、どうしてそんな素っ気ないコト言えるの?
「やっ…電話しないとヤダ!」
『ワガママ言うなよー。こっちだってつきあいってのがあるだろ。』
 そんなの、知らないもん!
 私のこと、大事じゃないの? 信じらんない!
「もういい!もうヤダこんなの…っ……」
 声が震えてくる。
 ワガママ言ってるのはわかってるけど、でも、私のことだって大事に思っていてほしいのに。
『ヤダって言うなよ。オレだってイロイロと気を使ってるだろうが。』
 きっと一緒にいれたらこんなふうにならないんだと頭のどこか隅っこのほうで思う。
 一緒にいたらきっと、そんな日に飲み会なんて行かないし、ふたりで過ごすことができたし。
 そもそも、忙しくてもちょっと顔を見て話をすると、きっと楽しい気分になれるはずなの。
 そんなふうにできなくて、少しずつ、気持ちも遠くなってしまったのかな。
 ……もう、一緒にいられないのかな。
 そう思ったらぼろぼろと涙が出てきて止まらなくなった。
「……今日は、もう切るね。……また、ね。」
 彼の返事を待たずに、電話を切った。


 次の日。
 クリスマスイブだというのに、私は泣きはらした目をして最高にブサイクになっていた。
 いいんだ、かわいくしてたって、見てほしい人はそばにいないんだから、かわいくてもブサイクでも、どっちだっておんなじだもん。
 ……昨日、あんなふうに電話を切って、今日は私からはなんだかかけにくい。
 彼から、かかってくるだろうか。
 でも飲み会だって言ってたし。
 かかってこないのかもしれない。
 このまま、サヨナラなんだろうか。
 きっかけはささいなコトだけど、お別れするって、そんな理由のときだってきっとあると思う。
 そんなふうに思ったら一日ずっとヘコんでて、帰り道の街のイルミネーションも目に入らない気分だった。


 夜10時半。
 やっぱり電話、来ないなあ……。
 普段だったら9時半くらいにかかってくるはずなんだけど。
 ベッドに寝転がって携帯の画面を見つめる。
 私からかければいいんだろうけど、でも、それもできなくて。
 また、泣きたくなってきた。
 目の前の携帯の画面がぼやけてきたとき、メールの着信音が鳴った。
「…あ……」
 彼からのメール。
 タイトルはない。
 彼はいつも、タイトルをつけないでメールしてくるんだ。
 本文には『願い事しなさい。』とある。
「……写メ?」
 添付された画像を受信すると、黒っぽい中にぼやっと白い点がいくつか見える。
「何これ?」
 なんだかわからない画像が気になって、しかたがないから彼に電話をかけてみた。


『……よう。』
「……この、写真…なに?」
『雪だよ。今降ってるんだ。』
「…今、外?」
『うん、これから3次会……ホントは帰りたいんだけどな。なんか独身者の会に入れられちゃってさ。こんな日にこんな時間まで飲み歩くハメになっちゃったよ。』
「もう、寒いでしょ。……大丈夫?」
『うん、お前が送ってくれたマフラーしてるから。昨日、届いたんだ。……昨日、言えなくて……ゴメンな。』
 そうだ、昨日はお休みの日だから、昨日届くように日にち指定をして送ったんだった。
「う、ううん、…私が、電話切っちゃったから……ごめん……」
『…それ、その、雪。東京では、まだ降ってないだろ。』
「うん、降ってないよ。」
『だからさ、そっちでは、お前が一番に雪を見てることになるだろ。』
「…そう、なるのかな。……うん、まあ、そっか。」
『だから、願い事しなさいって。』
「……ば、ばかにしたくせに……」
 くすくすと笑う声が聞こえる。
 でも、ちゃんと覚えてたんだ、私が話したこと。
 聞き流してるようにしてたのに、ちゃんと覚えてるんだ。
『お前は、願い事って何するんだ?』
「……願い事は人に言ったらいけないんだよっ。」
『……またそういう子どもっぽいコトを言ってるし。』
私の願い事なんか、決まってるじゃないの。
「……ねえ。」
「なに?」
「大好きよ。」
「オレもだよ。」




END

2003/12/02