Man and Woman

OOPS!

04. スキニナル。

 笑顔を絶やさない女の子はモテると言う。
 実際、そういう女の子は好感が持てる。
 しかしそれは人間の女の子だった場合の話。
 悪魔の場合は、どうなのよ?



 夕食の後、リビングで家族が思い思いにくつろいでいる。
 その中で莉音はもうすっかりなじんでしまっていて、妹と一緒にファッション誌を見ながらああでもないこうでもないとしゃべっている。


 我が家は全員がいわゆる『霊能力』のようなものを持っている。
 悪魔祓いが家業であるため、この体質を子孫にも維持していかなくてはならない。
 そのため、同じような体質を持った人間と結婚することになっている。
 父は母と見合いをして結婚し、また祖父母も同じようにしてきた。
 妹の真子は今は19歳だけれど、先日見合いをしたところ、相手とすっかり意気投合してしまって、大学を卒業した頃に結婚することになった。


 僕はと言えば、なかなか条件の合う相手が見つからなくて、今は宙ぶらりんの状態だった。
 今まで恋愛経験がなかったわけでもないし、長男だからとかいうことも厳しく言われていたわけでもないけれど、子どもの頃から家の仕事を継ぐことは自然なことだと思っていたし、これといって反抗する理由もなく。
 大学では心理学と神学を学び、卒業後すぐに父の仕事を手伝うようになっていた。
 そのうち、いい相手が見つかればその人と結婚することになるんだろう。
 ずっと、そう思ってきた。


「一真、明日は朝一で依頼が来てるから。9時には出かけるからな」
 父が僕に声をかけた。
「ああ、はい。わかった」
「あたしも行っていい?」
 すかさず莉音が口をはさんだ。
「莉音ちゃんがやってくれるとすごく楽でいいねえ」
 と、父はうれしそうに言うけど。
 ちょっと待て。
「それじゃあ修行にならないんだけど」
「一真、そんなマジメにやってたか?」
 それは言ってはいけません。
「またキスしてもらっちゃおうっと」
「えー! お兄ちゃん、莉音ちゃんにキスしたのー!?」
 うふふ、と笑う莉音の側で、真子がきゃあきゃあとはしゃぐ。
「………そういうことをしゃべるなと……」
「なんだかんだ言って、それなりに仲良しなんでしょ」
 なんて、母までのん気に言っているけど。
「別に仲良くないけど……」
 ていうか、なんでウチってこんなオープンなわけ?
 いや、まあ、オープンだよな。
 莉音が僕の部屋に寝ていてもなんにも言われないし。
 真子の婚約者とのつき合いにしても、泊まりに来たり泊まりに行ったりもわりと平気だ。
 こういう家庭は少ないんじゃないかと思う。
「でもあたし、一真クンのこと好きだよー?」
「愛されてるねえ」
 丁重にお断りしたいんですけど。
 ていうか、断り続けてるけどなんだか莉音のペースにハマっていってるというか…。
「……あまりうれしくないような気がするんだけど……」
 嫌いなタイプではない。
 ……と、思う。
 むしろ……認めたくはないが、容姿性格共に、好みのタイプだ。

 自分でも自覚しているが、僕はどちらかと言うとのんびりしたタイプだから、ちょっと引っぱってくれるような元気な女の子のほうがつき合いやすかったりする。
 容姿にしたところで、……銀髪赤目はちょっと特殊だが、ちょっと小柄だけれどスタイルがよくて、くるくるとよく動く女の子は、好きなタイプだ。
 なにより、いつもニコニコと笑ってるところがかわいいと思うし、家族にもウケがいいのはそのあたりから来てるんだと思う。

 ………だからかわいいとか思うな、自分。
 やばい。本気でやばい。
 ちらっと莉音のほうを見たら、僕の視線に気がついた莉音がにっこりと笑った。


 僕の部屋に戻ってから、莉音に聞いてみた。
「お前、なんでそんなふうにいつも笑ってるわけ?」
「だって、毎日楽しいもん」
 ニコニコと笑って答える。
「そうか?」
「うん、一真クンといると毎日すごく楽しい」
「俺何もしてないし」
 こんなのが憑いてたら周りの人がバタバタと具合が悪くなっていくだろうからほとんどどこにも出かけてないし、だからといって構ってやってるわけでもない。
 毎日、自宅と診療所の往復と、一回悪魔祓いの仕事に行っただけだ。
 診療所では、僕はラテン語や悪魔祓いの儀式についての勉強をしている合間に、莉音のおしゃべりに時々つき合ってるくらいだった。
「うーん、まあそうなんだけど」
「なんだよ?」
「好きな人と一緒にいるってだけで楽しくない?」
 ………。
 無邪気に笑ってそんなことを言われると、ぐらりと来る。
「……まあ、そういう気持ちはわかるけど」
 僕は動揺してる自分の気持ちを莉音に悟られないように、憮然とした表情で答えた。
「ね」
 ふふふ、と笑いながら、まとめていた髪をほどいてベッドに腰掛ける。
 だからその笑顔はぐらぐらくるからちょっとダメ。
 莉音から目をそらして布団を敷きながら、言葉を続ける。
「でもなんでオレのこと、そんなに……」
「一真クンやさしいし」
「やさしいことしてないし」
「一真クンかわいいし」
「それよくわかんないんだけど」
「一真クン一緒にいてくれるし」
 ……それか。
「それ、重要なことなの?」
「うん、すんごい重要。だって悪魔はいつもひとりなんだもん」
「……家族とかいないのか?」
「いないよ。どこから生まれてくるのかもよくわかんないけど、気がついたらひとりで生きてた」
 なんでもないことのようにケロリとして答える。
 そういうものなのか。
「ひとりでいるもの気楽だし、なんでもできるけど、たまには誰かといるのも気が変わって楽しいなって」
「……ふうん」
「さ、眠くなってきたからそろそろ寝よ」
 と、服を全部脱いでベッドに横たわった。
「……ああ」
「ねえ、一真クン」
 莉音はタオルケットにくるまって、上目遣いで僕を見上げた。
「何?」
「おやすみのキス、して」
 断るつもりだった。
 全然キスしたいとかいう気はなかった。……はず。
 でも。
「………うん」
 莉音に近づいて、頬に触れて唇を重ねた。
 今日は、ほんの少し触れるだけのキス。
 唇を離して目を開けると、やっぱりうれしそうに微笑む莉音の顔が目に入った。
「……おやすみ。」
「おやすみなさい。」


 明かりをを消して、布団にもぐりこんだ。
 ………何やってるんだ、自分?
 莉音のことが好きなのか?
 相手は人間じゃないし。
 よりによって悪魔だし。
 悪魔祓い師が悪魔を好きになってどうするよ。
 それを差し引いたところで、好きだとかそういう感情持ったって、莉音はただの気まぐれでこうして一緒にいるだけなのに。
 ……いつかは、今の生活に飽きていなくなるのだ。
 そう考えると、なぜか胸の奥がちくちくと痛んだ。
 ベッドから聞こえてくる小さな寝息を聞きながら、僕はなかなか寝付くことができなかった。


 神様、この気持ちは恋なのでしょうか……。