Man and Woman

OOPS!

07. スゴクコマルンダ。

 結局。
 3ラウンド開始早々、両親が帰ってきたことで中断することになった。
 ……帰ってきてくれてほっとしたというのは秘密だ。
 さすがに連続で3回もしたことないし。
 立つかどうかもちょっと微妙………という話は置いておいて。
 莉音の体力にはちょっと参った。

「……お前、体力ありすぎ」
 寝るときはいつもどおりに床に布団を敷いて、莉音はベッドの上。
「だって、セックスしたら元気になるんだもん」
 くすくすと笑いながら、タオルケットに包まる。
 その笑い声が耳に心地よく感じられた。
「…ああ、オレの体力取られたってことか」
「うん、でも一真クンすごいよ。普通の人は1回でもうヘロヘロになってたよ」
 昔から自分の体は特異体質だと思ってたけど、変なところで役に立ったと言うか、なんと言うか……。
「……あ」
「なあに?」
「…避妊してない」
 忘れるほど夢中だったってこと?
 それは……まあ、そうなんだけど……。
「大丈夫よ。人間との間には子どもはできないし。ていうか、悪魔って子ども産むんだろうか? って感じだから」
「……そうなんだ」
 ちょっと安心した。
 6月6日の6時に出産とかだったらシャレにならないだろ。

 子どものときから、悪魔だとか霊だとかが普通に見ることができて、話をすることもできた。
 心霊スポットなんかに出かけたりしたら、普通の人間なんだか霊なんだかわからないことだって多いくらいだった。
 見えることが普通だったから、特に怖いという感情もなかったけど、それなりに嫌な思いをしたこともある。
 霊の怨恨に巻き込まれかかったことだって何回もあった。
 それでも、悪魔にも霊にもそれぞれの事情があったりするし、そういうのを理解してやるのもエクソシストの仕事なんだと思う。

 じゃあ莉音の事情ってなんだ?
 僕と一緒にいたい理由。
 僕に……好意を持っている理由。
 ……イマイチよくわからない。
 前に莉音が言っていたことを思い出してみる。
 僕がやさしいから?
 やさしいことなんか何もしていない。
 むしろ邪険に扱ってるくらいで。
 ………かわいそうなことしたかな……。
 いや、それはまあ別の話だ。
 僕がかわいいから?
 いくらなんでもかわいいって年でもないだろう。
 じゃあ、やっぱり『一緒にいられるから』が一番の理由か?
 ……でもそれじゃあ僕じゃなくてもいいわけで。
 そう、例えば親父でもいいわけだ。
 ……それは……ちょっと………。
 そもそもなんで誰かと一緒にいたいんだろう。
 ひとりでも平気だって、莉音は言ってた。
 じゃあなんで?
 ……僕のことが好きだから?
 堂々巡りになってきてるな。
 僕はため息をついて布団にもぐりこんだ。
 女の考えることってよくわからない。
 まあ、それは莉音に限ったことじゃないんだけど。
 今日はなんだか眠れそうもない。
 ベッドから聞こえる穏やかな寝息を聞きながら、またひとつため息をついた。


「おい。……今日は診療所にいるから」
 翌朝、まだベッドで眠っていた莉音に声をかけた。
「ん…もう出かける時間……?」
 眠そうに目をこする。
「うん。まだ寝ててもいいけど」
 僕はどうも莉音をまともに見ることができなかった。
 いつも通り裸で寝ている莉音を見たら、昨日のことが妙にリアルに思い出してしまう。
 そそくさと出かける準備をして、部屋から出ようとした。
「うーん、もう少ししたら行くから」
「ああ。……あと、…昨日のことだけど」
 部屋のドアのところでふと立ち止まって、欠伸をしている莉音に言った。
「んー?」
「……親には言うなよ」
 僕の言葉を聞いて、ぱちっと大きく目を見開いた。
「ん」
「真子にも言うなよ」
「うん」
 ふふ、と笑って返事をする。
「……いくらなんでもバレたらちょっとやばい気がする」
「そうかもねー。じゃあ、ヒミツね」
「うん。…絶対だぞ」
 念を押すように言う僕を見て、おもしろそうに笑う。
「大丈夫だよ。…でも、またしようね」
「………微妙」
「なんでよー!?」
「そんなこと朝っぱらから言えるか、ばか」
 本音としては、機会があれば、とは思うけど。
 しかしそんなこと言うのもどうかと思う。
 その気がないわけではないし、むしろ歓迎とか思うのは僕が男だからか、それともついつい簡単に落とされてしまったヘタレだからか。
 ………男はみんなそうなんだということにしておこう………。


 二時間くらいしてから、莉音が診療所に来た。
 もう休診にしてからどれくらいになっただろう。
 もともと形ばかりの診療所で、古い建物のせいもあって、友人なんかからはもう誰も使ってない建物だと思ったとか言われる。
 そのせいか患者もほとんどない。
 ときどき間違ったように来る患者は、なんとなく診てから知り合いの病院を紹介するような適当な診察だったから、休診にしたところでそんなに今までとの違いはないんだけど。
 まるっきり留守にするのもなんだし、ずっと家にこもってるのも嫌だからという理由で、平日は診療所にいるようにしている。
 一方親父は、最初の頃は同じように診療所に来ていたのだけど、悪魔祓いの仕事のある日以外は、最近は家にいることのほうが多い。
 なので、診療所では必然的に莉音とふたりきりになるのだ。
 機会はいくらでも……って、何考えてんだ、僕は。
「一真クン、顔赤いよ?」
「……なんでもない……」
「そう?」
 僕の顔をのぞきこんで首を傾げる。
 ……それ、かわいすぎるからやめてください。
 しかも莉音が僕の顔をのぞきこもうとすると、ひらひらとしたキャミソールみたいな服の胸元からどうしても谷間が見えてしまう。
 それでまた、昨日の……莉音の胸の柔らかさとかを思い出してしまう。
 僕はあわてて莉音から目をそらして、座っていた椅子を回して莉音に背中を向けた。
「なんでもない」
 と言ったけど、全然なんでもなくないんだ。
 だからいつも以上にぶっきらぼうな物言いになってしまう。
 ……そんなふうにしたいわけじゃないんだけど。
 もっと普通に……だって昨日あんなふうにセックスしたんだし、恋人同士みたいにしたっていいのに。
 でもそれは莉音が普通の人間の女の子であればの話。
 そうじゃないから、すごく困るんだ。
 どうやって接したらいいのか、今まで以上にわからなくなった。
 それなのに莉音はいつも通りに、ものすごく薄着な格好で僕のそばをうろうろする。
 ………僕は大きくため息をついた。
「どうしたの? さっきから変だよ?」
 僕の後ろにあった診療台に腰掛けたまま、莉音が聞いてくる。
「…いや………ごめん、オレ……嘘言った」
 僕は莉音に背中を向けたまま、話をした。
「なあに?」
「……なんでもないって、嘘」
「うん?」
「なんでもなくないんだ。………莉音」
 くるり、と椅子を回して莉音のほうへ向いた。
「ん?」
 いつも通りの無邪気な笑顔。
 立ち上がって莉音に近づく。
「………キス、していいか?」
 そう聞いたときにはもう莉音の体を抱いていたし、
「うん」
 と、莉音が返事をするのとほとんど同時に、唇を重ねていた。


 神様、僕はなんだか、……恋に溺れてしまっているようです………。