Man and Woman

OOPS!

14. miss you

「あれ? 莉音どこ?」
 日曜日の午後、教会の模擬結婚式でゴスペル挙式をやるってことで、頭数揃えるような感じでバイトに行って帰ってきたら、家で待ってたはずの莉音がどこにもいない。
 今は人間のフリをして生活してるから、悪魔特有の気はほとんどないとはいえ、僕らには微かに感じられる気配も今は全く感じられなかった。
「ああ、なんか呼ばれたとか言っていなくなっちゃったわよ」
 と、夕食の仕度をしながらのんびりとした口調で母が言う。
「呼ばれた?」
 どういうことだ?


 僕は事態がさっぱり理解できてないまま、自分の部屋に戻った。
 情報量があまりに少ないんだからしょうがない。
 それでもなんだか置いてけぼりになった感は否めない。
 というか、文字通り置いてけぼりだ。
 僕のこと好き好き言って四六時中まとわりついてるくせに、なんなんだよ。
 莉音の香りがまだ残っていそうなベッドにごろりと寝転がる。

 ……ていうか、これ浮気じゃないのか?

 相手もなんにもわからないけど、どっかの誰かと契約なんかして今頃……とか想像して、自己嫌悪に陥る。
 莉音を信じてやれないでどうするんだ。
 ずっと、死ぬまで一緒にいるって約束したんじゃないか。
 ちょっと召還されたくらいでぐらついてどうする、自分。
 すぐ帰ってくる。……たぶん。

 ……帰ってこなかったらどうしよう?



 結局、夕食が済んでも風呂入っても、莉音は帰ってこなかった。
 家族みんなが寝てしまって、自分だっていつもなら……莉音を抱いてるような時間になってもひとりでいるなんて。
 毎日セックスするなんてけっこうしんどいのにやらされちゃってるんだから、たまに休めていいといえばいいかもしれないけど、なんかこう……つまらないというか。

 ……いや、やっぱり寂しいんだよな。

 と、自分の気持ちを分析して、ため息をつく。
 手持ち無沙汰でしかたがないけど、寝てしまうこともできずに、バイトの帰りに買ってきた雑誌をめくりながら莉音の帰りを待つ。
 なんだろう、残業の夫を待つ妻ってこんな感じ?
 ……違うな、仕事だったら別に…ていうか莉音の仕事ってなんだ……。
 どっちかと言えば浮気性の夫を待つ妻だろうな……ちょっと僕ってかわいそうじゃないか?
 雑誌の記事なんか頭に入ってくるわけもなく、僕はまた盛大なため息をついた。
 そのとき。
「たっだいまー」
 と、聞き慣れたちょっと甘ったるいような声が耳に入った。
「莉音……!」
 莉音は部屋のドアの側に突然姿を現した。
「遅くなっちゃってごめんねー。ただいま、一真くん」
「お、おかえり……ってお前、こんな時間までどこに行ってたんだよ」
「あれ、心配してた? ていうか、待っててくれたの? うれしいなあー」
 なんて言って、ニコニコしてる。
 ひらり、と薄い生地のキャミソールワンピースの裾を揺らして、ベッドに座っていた僕の隣に腰を下ろした。
「だからどこに……」
「ちょっと召還されて、出かけてきたの。たいした用事でもなかったから、簡単に済ませてきたつもりだったんだけど、遅くなっちゃった。ごめんね」
「召還って……何してきたんだよ?」
「あれ? 一真くん、ヤキモチ妬いてるとか?」
 ニコニコといつものかわいい顔で僕のふくれっ面を覗き込む。
「別にそういうわけじゃ……」
 と言っている間に、頬にキスされた。
「一真くんってばー、かわいいなあ」
 ベッドがぎしっと軋む。
  莉音は僕の腿の上にまたがって、首に腕を絡みつかせるようにして抱きついてくる。
「だから違うって……一応、信用してますから?」
「うふふ。ありがと。……大丈夫だよ。今はこういうことする男の子は、一真くんだけにしてるから」
 柔らかい唇が、僕の唇に重なる。
 濡れた舌が僕の唇をなぞって中に侵入してくる。
 その舌の動きに応えるように舌を絡ませた。
 ほとんど無意識に、莉音の背中を指先で撫でる。
「ん……」
 唇はまだ離さない。
 離れようとする莉音の後頭部を押さえてキスを続ける。
 ほんの少しの隙間から莉音の甘い吐息が漏れた。
 最初にキスをしてきたのは莉音からだったけど、今は僕のほうが莉音の口内を味わうように舌を動かしていた。

 長いキスから解放された莉音は、さっきまでの無邪気な表情と変わって、色っぽい微笑みを浮かべる。
 ガーネットの瞳が艶やかに潤んでいる、その顔がぞくぞくするほど好きだ。
「…一真くん……」
 吐息交じりに僕の名前を呟く声も好きだ。
 白く細い喉元に唇を押し当てる。
「あ…ん……」
 僕の動きにあわせて仰け反って小さな声を漏らす。
 肩の紐を少しずらすだけで、簡単に露わになる胸のふくらみを両手で包んでゆっくりと揉む。
 柔らかくて弾力のある、手のひらに吸い付いてくるような莉音の肌が好きだ。
「……誰にも…」
「…ん?」
「……他の誰にも、こういうことさせたくないんだ」
「うん。…一真くんだけだよ……こんなことするの、もう、一真くんとだけ……」
 体の位置を入れ替えて、莉音をシーツに押し倒す。
「あっ…ああん……」
 胸の頂を口に含んで舌で転がすと、体をぴくんと震わせて鼻にかかった甘い声を漏らす。
 体にまとわりついているだけになっていたワンピースを下ろしながら、莉音の体中にキスをしていく。
 華奢なレースとリボンがついた薄いショーツ越しに、莉音の中心に指先で触れる。
「あ……!」
 自然な動作で莉音は脚を開き、そこに僕が入り込む。
 ショーツの上から唇を当てると、頭の上からくすぐったそうな笑い声が聞こえた。
 莉音の指が僕の髪をゆっくりと弄る。
「ね……舐めて……」
「そのつもり」
 僕が返事をするとまた、くすくすとうれしそうに笑う。
 莉音はいつもそうだ。
 セックスのときはいつも、楽しそうでうれしそうで、そういうところが素直でかわいいと思う。
 ショーツを脚から引き抜いて、隠れていたそこに口づける。
「あ…っ……!」
 そこに舌を入れて、とろりとあふれ出す蜜を喉の奥に流し込む。
「一真くん…気持ちイイよぉ…っ……」
 莉音はこうされるのが好きだってわかってるから、しつこいくらいにそこを舐め続けた。
 目を上げると、腰をやさしくくねらせて快楽に身を委ねる莉音がいる。
 銀色の長い髪がシーツの上に散って、淡い輝きを放っている。
「一真くん…一真くん…っ……」
 僕の名前を呼ぶ声で、莉音の限界が近づいているのがわかる。
 そこで僕は舐めるのをやめて体を起こした。
「あ…やだぁ……いかせてよ……」
 ぷうっとふくれた顔をして見せながら、目は微かに笑っている。
「ひとりでいくなんてダメ」
 僕は着ていたTシャツとスウェットを脱いで、トランクスも脱ぎ捨てる。
「じゃあ、来て」
 言われるまでもなく、莉音と体を重ねた。
「はぁ…ん……」
 うっとりと目を閉じてため息を漏らす唇を、僕の唇で塞ぐ。
 キスを交わしながらゆっくりと体を打ち付ける。
 深く、浅く、強く、弱く。
 莉音の好きなやり方はもう全部知り尽くしてる。
 いつもだったら莉音にリードされることも多いけど、今日は主導権を渡さないことにした。
 莉音の脚を持ち上げて抱きかかえたまま突き上げる。
「あん…っ…やだ…すごいイイ…っ……一真くん…っ……」
 脚を放してまた深く抱きしめる。
 僕の首に腕を巻きつかせるようにして、莉音が抱きついてくる。
「もうダメ…もういっちゃう…っ……」
「…いっていいよ」
 僕のほうも限界が近かった。
「あっ…あ……いく…っ……いっちゃう……!」
「莉音…っ……!」
 莉音の胎内に自分自身を深く埋め込んだまま、僕は動くのをやめた。


 しかしなんだかごまかされてる気がするのは忘れることもなく。
「……で?」
「え?」
 目を閉じていた莉音は、まだ重そうな瞼を上げて隣で横になってる僕に焦点をあわせた。
「どこで何してたんだよ?」
「あー、好きな男の子に振り向いてもらいたくてって、呼び出されたの。そんくらいじゃ別に、ちょっと体液いただいたりする程度で契約してあげたんだよ」
 あたしって親切、なんて言いながらくすくす笑って、体をうつ伏せにする。
 莉音はうつ伏せか横向きで寝るんだよな。
 仰向けになって寝てるのはあまり見たことがない。
「……男の子?」
「うん、女の子だよ、今日の相手。ていうか、女の子だったから行ったんだよ。浮気にならないでしょ?」
「……女の場合…どんな体液もらったりするんだよ?」
 何気なく疑問に思ったから聞いてみたんだけど、
「気になる?」
 なんて含み笑いで聞き返してくるから、なんだか余計に気になる。
「気になる」
「……じゃあナイショ」
 莉音は口元に人差し指を当ててくすくすと笑い声を立てた。

END

2007/01/24