Man and Woman

OOPS!

17. 恋ノジュモン

「普通の人には見えてなくても、うちらは見えるからさ。やっぱり存在感あるんだよね」
 と、母が出かける前に作っておいてくれたカレーを昼食に食べた後、ダイニングでお茶を飲みながら真子がため息をついた。
 あれから数日、國稀の正体はさっぱりわからないままだ。
 本人も精霊だということ意外、あまり記憶がないのか、話したくないのか、のらりくらりとかわされて話が進まない。
 祖父の家に艶子さんの日記があるはずだということで、祖父の調査待ちをしているところだった。
 ここ数日は悪魔祓いの仕事もなく、残念ながらニートのような生活をしていた。
「存在感あるんだよな……しゃべるしさ」
 國稀は普通の人には見えないし聞こえない霊体だが、僕ら家族には見えるし聞こえるしで、どうしても家が手狭に感じるのは仕方がない。
「あたし、淳之介くんのうちに泊まりに行くかな……」
 淳之介くんは真子の婚約者だ。
 彼も同じように見える人だけど、まだ真子と同じ学生だし、家族も悪魔祓いはしていないという。
 彼の家でのんびりする気かよ。
「真子ずるい」
「國稀さん、イケメンなんだけどさ、お兄ちゃんに夢中でちょっと……そっち系かなーって、邪魔しちゃ悪いかなーって」
 そう、やたらと僕についてくるし、他の人よりも何よりも僕に興味があるようで、熱い視線を感じることもしばしばというか、ずっとだ。
「ちょ、俺、一応莉音いるし……」
 性的マイノリティーに理解はあるつもりだけど、自分はマジョリティーの方なんで……通じ合うことはできないというか……。
 思い返してみれば、子どもの頃からこういう精霊だとか霊だとかに性別を問わず好かれて、ついて来られて困ることがよくあった。
 莉音のことも最初はそんなパターンだと思っていたくらいだ。
「莉音ちゃん、また帰って来ないんじゃん」
 それな。
 僕だって、國稀には勝手に居座られて困ってると言ってるのに、プリプリ怒って消えてしまった。
「莉音な……一体どこで何をしてるんだか」
「また呼び出した方がいいんじゃないのー?」
「またうまく莉音を呼び出せるのかどうか……あの時はたまたまだったのかもしれないし」
 あの時は必死だったけど、よく考えたら莉音じゃない悪魔を召喚する可能性もあったわけで。
 何度もやるにはリスクが高すぎる。
「お兄ちゃん、莉音ちゃんのためにもほんとどうにかしなよ」
「うーん」
「お前たち、よくそんな話を本人のそばで話せるな」
 と、國稀が呆れ顔で口を挟んだ。
「聞こえるように言ってるんですよ」
「あんまりにメゲないもんだから」
「そりゃあ、お前たちのような人間の言葉にいちいち滅入るわけがなかろう」
 國稀はおっとりとしたお年寄りのような話し方ではあるが、どこか強さが感じられる声だ。
「ですよねー」
 僕らふたりは小さくため息をつく。
「あの魔物は帰ってこないのか?」
「そうですね」
 あんたのせいなんだけどね、と喉元まで出かかって、やめた。
「まあ良いではないか。一真には俺がいるだろう?」
 と、流し目で僕を見て微笑むの、ほんと勘弁。
「俺、あいつと契約しちゃってるんで。……ずっと一緒にいるって」
「ほう、お前かなりの物好きだな」
「そう言う人がほとんどですけど、しちゃったもんは変えられないし」
 とりあえず、変える気もないし。
「なんだかんだ文句言いながら、ほんと莉音ちゃん好きだよねー、お兄ちゃん」
「………………うん」
 かなりたっぷりと間を置いて、だけど素直に返事をしたその瞬間、目の前五センチもないところに莉音が現れて、そのまま勢いよく抱きついてきたから、ダイニングの椅子ごとひっくり返った。
「ぅわあぁ!!」
 ものすごい勢いで床に叩きつけられて、後頭部と肩をしたたかに打った。
「一真くん! あたしも大好きだから!」
 ぎゅうっと抱きついてくるけど、苦しいし体の後ろ側全部痛いしで。
「いってぇ……」
「良かった、莉音ちゃんおかえり」
「マコちゃんも好き!」
「真子、お前、わかってて言わせたな?」
 こんなに突然現れたというのに全然動揺しないなんておかしいだろ。
「さあー、知ーらない」
 と、真子は笑いながら席を立って、
「ほら、邪魔しないであげて」
 と國稀に声をかけた。
「ふむ、そういうもんかの」
 國稀は首を傾げて、透き通るようにして消えた。
「いなくなった……?」
「ちょっと、出てくるだけだ」
 と言う國稀の声のあと、気配が消えた。
「あたしもちょっと出かける。晩ごはんには帰るってお母さんに言っておいて」
 ひらひらと手を振って、リビングに置いてあったトートバッグを手に取って部屋を出た。
「……真子とは通じてたな?」
 まだ僕の上にのしかかったままの莉音を見上げると、いたずらっぽい笑顔を見せる。
「さあ、ないしょ」
 と言い終わらないうちに、莉音の唇は僕のものと重なり、ちゅっちゅっと小さな音を立てながら何度も角度を変えて口づける。
 こうなると、抵抗なんでできないし、そんなつもりもない。
 とろりと唇を割って入ってくる莉音の舌と自分のものを絡ませて、華奢な背中に手を回した。
「……一真くん……ふたりきりだね」
 鼻にかかった甘い囁き声は、この先の僕の行為を決める呪文のようだと思う。
 まあ、今は真昼間なんだけど、莉音が言うようにふたりきりの時間はちょっと久しぶりだ。
「でもこれじゃ、背中が痛い」
「そうだね」
 と莉音が返事をした瞬間、周囲が自分の部屋に変わった。
 僕らふたりの体勢は同じままでベッドに横たわっている。
 背中に当たってるのが柔らかいマットになったことに少し安心する。
「力、無駄遣いするなよ」
「今から補給できるし」
 と、僕の上にのしかかった莉音の唇が、僕の唇や頬や首筋へと移動していき、細い指先はTシャツの上から僕の胸元を探るようにまさぐる。
「ちょ、くすぐったい」
「ね、もう、服脱いでよ」
 莉音は僕に跨ったまま自分のキャミソール型のワンピースを脱ぎ、くすくすと笑い声を上げる。
 ワンピースの下からは薄く肌が透けた真っ白いランジェリーに飾られた美しい肢体があらわれた。
 さらさらと揺れて光を放つ銀髪と、もともと透き通るような白い肌の上を真っ白のチュールレースがベールのように莉音を包んでいるのがあまりに美しくて、でも早くそこに触れたい気持ちもより強くなる。
 僕も着ていたTシャツを脱いだ。