Man and Woman

satisfaction moment

04. 惑溺 

 約束の水曜日。
 なんとなく、少しだけ、前と違う気持ちで哲弥さんのマンションに一番近い駅で待ち合わせる。
 仕事がある平日だからセクシーなランジェリーではないけれど、普段使いよりは少しおしゃれっぽい下着を選んできた。
 私が地下鉄から降りてから十分ほどで哲弥さんが現れた。
「ごめん、遅かった?」
「ううん、そんなでもないよ。おつかれさま」
「お疲れさま。ごはん食べて行こうか」
「そうだね、お腹すいたわ」
「それから、車で出よう」
 その言葉に、ふと彼の顔を見上げると、彼はどこか艶っぽい微笑みを浮かべた。



 つき合いはじめてから、デートらしいものは週末に。
 平日はごくたまに帰りの時間が合ったようなときに食事に行くくらいで、セックスするとかあんまり考えたこともなかったけれど。
 それまでは、セックスにはお互いにそんなにこだわりがなかったけれど、彼の性癖の告白からは今までよりも愉しむことに貪欲になったように思う。
 なんだか、自分でもちょっと不思議なくらい。
 私ってこんなにえっちだったのかしら?
 ちょっと心配になるけれど、哲弥さんは喜んでいるようだし、嫌っていうわけでもないし。
 ……嫌ってわけでもって言うよりも、充分楽しんでるじゃない。
 こんなでいいのかなあ……という思いも頭の片隅にありながらも、その日もラブホテルの大きなベッドの上で、私は下着だけになって、仰向けに裸で横たわった彼に覆いかぶさるようにして、時々唇を重ねる。
 こんなふうに平日の夜にデートするのも何回目かなあ、ラブホテル代もばかにならないんじゃないかなあ……なんてことも少しだけ。
 それでもキスをしているうちにそんなモヤモヤはどんどん小さくなっていってしまう。
「ほのか、香水? いい香り」
 彼の手首には、今さっき部屋のクローゼットに備え付けてある自動販売機で買った、オモチャみたいな手錠で後ろ手に拘束されている。
 それがいいって言うからしてみているけど、今のところ普段とあまり変わらない口ぶりで話しをしている。
「うん、ちょっと大人っぽいかなとか思ったけど」
 胸の谷間に落とした滴がふんわりと匂い立つ。
 甘さの中にほんのりスパイシーな香りがある、今までなら選ばなかったタイプの香りだけど、今の私たちの時間には合っているように思う。
「うん、大人っぽいというか、セクシーな香り。似合ってるよ」
「そう? ありがとう」
「会社でもつけてた? みんなにほのかがこんなにセクシーだってことばれちゃうんじゃない?」
「会社では、つけてなかったよ。今日初めて……デート用」
 少し前から探してた、イメージにぴったりの香水は昨日やっと見つけたもの。
「ほんと? うれしいな。下着も、今着たの?」
 今の下着は赤いレースの肌が少し透けて見えるもので、正直補整機能なんてほとんどない。
 ショーツなんて肌が隠れてる部分はとても小さくて、脇は細いリボンで結んである。
 前から彼はセクシーな下着が好きって話はしてたけど、平日でもこんなふうに準備をしちゃってる私もちょっとエスカレートしてるかなとも思う。
「そう、デート用」
 と私が笑うと、彼もうれしそうな微笑みを見せる。
「そうなんだ? こんな素敵なの用意してくれて、うれしいな」
「ほんと?」
「ほんと。ほのかの準備がよすぎて驚いてる」
「だって……会いたいって言ってきたのは哲弥さんじゃない」
 こうやって平日に誘ってくるのは哲弥さんの方。
 どちらかと言えば仕事の時間が不規則になりがちなのも彼の方だから、そのあたりはそんなものかなと思っている。
「そうなんだけど……楽しみにしてたの?」
「ん……うん……今日はずっと、哲弥さんのこと考えてた、かも」
「真面目に仕事してると思ってたんだけどな」
 と彼が苦笑する。
「哲弥さんは、そうじゃないの? わたしに、こうやって……触られたいって思ってなかった?」
 するすると彼の胸の上を指先で撫でて、おなかを通ってその下にほんの少しだけ触れる。
 それだけで彼は熱い吐息を漏らした。
「あっ……ほのか、急に……」
 眉をひそめて困ったような表情に、私の気持ちは昂ぶっていく。
「そっか、焦らされたいんだよね……まだ、触ってあげないほうがいいかな」
 と、そこから手を離して、また胸元を撫でた。
「あ……ほのか……」
「ん……触ってほしいの?」
 唇をほんの少しだけ触れ合うようにしてささやくと、ごくりと唾を飲み込むように彼の喉が動いた。
「うん……触って……」
 少し触れただけでスイッチが入ってしまったような、その掠れた声が愛しい。
 て言うか、かわいい。すっごくかわいい。
 だから、もう少し意地悪したくなる。
「んー、どうしようかな……」
 と、私は指先で彼の唇に触れると、
「ああ……」
 と熱いため息とせつなげな声が漏れた。
「こういうの、好き?」
「うん……うん、好きだ……」
「じゃあ……舌出して」
 思いつく限りのいやらしいことをしよう。
 ふと、そんなふうに考えた。
 彼が口を開いて突き出した舌の上に、私は舌先から唾液の滴をゆっくりと落とす。
 細い糸を引きながら彼の舌に落ちたその滴を、彼はうっとりとした表情で飲み込んだ。
「……もっと、ほしい?」
「ああ……もっと、ください」
 せつなげな視線で懇願しながら、彼は舌を突き出す。
 その舌をじっくりと舐めて味わって、吸いあげる。
「あ……ああ……」
 彼の頬から首筋、鎖骨を指先でゆっくり撫でて、また頬に戻る。
 指で彼の舌に触れると、指先を絡め取られて口の中へと吸い込まれるから、そのまま口の中をかき回すようにしながら指を出し挿れする。
「んん……」
 彼は私の指を味わいながら、恍惚の表情を浮かべる。
「これって、なんだか」
 と、私は言いかけた言葉を途中で切った。
「うん?」
 彼の唇から指を引き抜くと、透明な糸がかかって、そして切れた。
「ん……ちょっと、やっぱり言わない」
 自分でもちょっといやらしすぎるかなと心配になる。
「気になる」
「んー……女の子の、触ってるみたいだったなって」
 と言うと彼は少し笑った。
「触ったことある?」
「……まあ、うん」
「こんな、奥まで?」
「……うん」
「……見たいな。ほのかが、自分で触ってるとこ」
「えー」
「だめ?」
 なんて、上目遣いでおねだりされたら。
 私のちょっぴり残ってた理性なんて一瞬で吹き飛んでしまう。
「……じゃあ……手錠は外してあげないよ? さわっちゃ、ダメ」
 寝転がった彼の顔の上に跨って、でもこの前みたいに腰を下ろさないで浮かせたまま、私の手は自分の身体の上を撫で回していく。
「は……あ……」
 胸を両手でじっくりと揉んで、ブラが少しずれて先端が出てしまったところで、そこを指先で摘んで捏ねる。
「はぁ…ん……」
「ああ……ほのか……」
 胸の膨らみを揉んでいた左手を下の方へと伸ばして、ショーツの上から割れ目に沿って布地を少し食い込ませるように中指の先で撫でる。
「んんっ……はあ……」
 手の甲に彼の吐息を感じながら、そこを何度となく行き来して、ショーツはもうぐっしょりと濡れた感触になってしまっている。
「ね……こんなに濡れちゃった……」
 と、指先を彼の唇に当てると、彼は舌を出して私の指を舐めた。
「ああ……美味しいよ、ほのか……」
 彼の唾液で濡れた指を、そのままショーツの脇から中へと進入させる。
「あっん……はあぁ……」
 そこはもう滴るほどの蜜で満たされていて、進入する何かを今か今かと待っていたようだった。
 ショーツの脇のリボンをほどいて、そこを彼に見せつけるように少し腰を前に突き出す。
 割れ目に指先を少し入れるだけで、とろりとした蜜が溢れる。
 それでも進入を止めずに、ゆっくりと中指を根元まで深く挿入して、そして引き抜く。
「ああ……ほのか……すごい、とろとろになってる……気持ちいい……?」
「うん……気持ちいいよ……」
 このまま彼に見られながら絶頂までいってみたい。
「ああ……やっぱり、同じ……哲弥さんの口の中と……同じだよ……」
 無意識に腰が揺れる。
 哲弥さんの口の中を犯す私。
 哲弥さんに一人でしているところを見せている私。
 そんなインモラルと言えることを平気でしている自分に興奮している。
「ほのか、ああ……そこに挿れたい……」
「まだぁ……ね、見てて……見て…ぇ……」
「見てるよ……ほのか、ほんとに、挿れたいよ……!」
 懇願とも言えるような彼の声とともに、私のそこを彼の吐息がくすぐる。
「だめ、もう、いくぅ……いっちゃう……!」
 ガクガクと腰が震えて、その奥が弾けた。
 中に侵った指をきゅうきゅうと締め付ける。
「あ…ああっ……」
 めまいみたいな感覚のまま、自分の中にあった指を引き抜いてそのまま彼の唇を割って中に挿れる。
 指に絡まった蜜をきれいに舐めとった哲弥さんは満足そうな微笑みを浮かべた。
「あ……哲弥さん……」
 快感の余韻もそこそこに、私は彼の下半身に手を伸ばす。
「あっ……ほのか……!」
 身体の向きを変えて、そこを軽く握って上下に擦りながら、熱くなったそこを口に含む。
「ああっ……そんな、こと……あ…っ……」
「これが欲しかったんでしょ?」
「あっ……うん……うんっ……それ……ああ、すごい……!」
 普段より上ずった声がかわいい。
 私は彼自身を深くまで咥えて、そして強く吸い立てた。
「あっ……もう、ダメ……いくよ……いくっ……!」
 その瞬間、口の中になんとも形容できない味が広がる。
 正直に言えば苦手ではあるけど、それでも最後までそれを口で受け止めてから、身体を離した。
 枕元にあるティッシュでそれを拭き取って、彼を見下ろす。
「ほのか……びっくりした」
 はあーっと大きなため息をついて、でもどこか嬉しそうな笑顔。
「ん……だめ?」
 ちょっと調子に乗ったかなと思うけど。
 私は枕元に置いてあった手錠の鍵を取って、後手になったままの彼の手首を自由にしてあげる。
「ダメなことなんか。すごすぎ」
 彼は首を横に振って、もう一度満足そうなため息をついた。
「それならいいんだけど。でも……」
 結局まだ身体は重ねてないのに。
 と、ちょっと思う。
 彼は私の手を引いて抱き寄せて、少し笑った。
「……もう一回くらい、いけるよ?」
 その言葉に身体の奥にまた熱を感じる。
 首を伸ばして唇を重ねたら、とろりと舌が口の中に入り込んで絡みつく。
 手のひらが私の肌の上を滑り出したとき。
 微かな振動音が耳に入った。